一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
ヒリヒリとした空気が流れる中、車は大きな川に架かる橋を渡る。大智は真っ直ぐ前を向きハンドルを握ったまま、話し出した。
「警察への対応は若木先生にお願いしてある。事情聴取がまたあると思う。そのときは僕が付き添うから」
「はい。ありがとうございます。……あの、大智さん」
やはりどうしても気になってしまう。今日樹が話そうとしていたことを、もしかしたら大智は知っているのではないかと。
「何?」
優しい口調で短く返事をした大智の横顔に、深呼吸したあと思い切って尋ねる。
「大智さんは……たっちゃんと峰永会の間に何があったのか、知ってるんですか?」
「知っているか、というなら、実際のところは知らないに等しい。あくまでも僕の推測でしかないから。でもきっと……間違ってないと思う」
やけに歯切れの悪い返事に思えた。知っているようで知らないとはどういうことなんだろう? 答えはやはり樹しか持っていないのだろうか。
「そう、ですか……」
釈然としないまま俯き、握りしめていた両手に視線を落とすと、隣から大智の声が聞こえた。
「もしかすると、事の真相は、彼以外の口から語られることになるかも知れない。病院には母も呼んでいるから」
ますます不可解に思うが、なんとなく運命がまた何かを手繰り寄せているような気がしていた。
走っていたのは、ほんの二十分ほど。予想よりかなり早く目的地に着く。
"峰永会病院"と掲げられているその建物は、想像していたよりもかなり立派で、規模は大きいようだ。
駐車場に車を止めると、灯希は目を覚ます。パパがいたことに上機嫌になり抱っこをせがんでいた。
その灯希を大智が抱き上げ、自分は荷物を持つ。彼の案内で、時間外の出入口から病院内に入った。
土曜日の午後ということもあり、そこを行き来するのは面会の人が多いようだ。途中で病室とは反対側へ曲がると、途端に人気がなくなった。その先の長椅子に、項垂れたように俯く眞央の姿があった。
「眞央さん!」
呼びかけると眞央は顔を上げる。青ざめたままで、悲壮感が鮮明に表れていた。
「たっちゃんは……」
「今は緊急手術中。詳しくは何も……」
眞央は小さく首を振って、力なく答えた。そんな眞央の元へ軽快な足取りで向かったのは、大智の腕から降りた灯希だ。
「まぁしゃ!」
眞央さんと言っているつもりの灯希が足に飛びつく。
その屈託のない笑顔が、冷え切った空気を暖める、陽だまりのようだと思った。
「警察への対応は若木先生にお願いしてある。事情聴取がまたあると思う。そのときは僕が付き添うから」
「はい。ありがとうございます。……あの、大智さん」
やはりどうしても気になってしまう。今日樹が話そうとしていたことを、もしかしたら大智は知っているのではないかと。
「何?」
優しい口調で短く返事をした大智の横顔に、深呼吸したあと思い切って尋ねる。
「大智さんは……たっちゃんと峰永会の間に何があったのか、知ってるんですか?」
「知っているか、というなら、実際のところは知らないに等しい。あくまでも僕の推測でしかないから。でもきっと……間違ってないと思う」
やけに歯切れの悪い返事に思えた。知っているようで知らないとはどういうことなんだろう? 答えはやはり樹しか持っていないのだろうか。
「そう、ですか……」
釈然としないまま俯き、握りしめていた両手に視線を落とすと、隣から大智の声が聞こえた。
「もしかすると、事の真相は、彼以外の口から語られることになるかも知れない。病院には母も呼んでいるから」
ますます不可解に思うが、なんとなく運命がまた何かを手繰り寄せているような気がしていた。
走っていたのは、ほんの二十分ほど。予想よりかなり早く目的地に着く。
"峰永会病院"と掲げられているその建物は、想像していたよりもかなり立派で、規模は大きいようだ。
駐車場に車を止めると、灯希は目を覚ます。パパがいたことに上機嫌になり抱っこをせがんでいた。
その灯希を大智が抱き上げ、自分は荷物を持つ。彼の案内で、時間外の出入口から病院内に入った。
土曜日の午後ということもあり、そこを行き来するのは面会の人が多いようだ。途中で病室とは反対側へ曲がると、途端に人気がなくなった。その先の長椅子に、項垂れたように俯く眞央の姿があった。
「眞央さん!」
呼びかけると眞央は顔を上げる。青ざめたままで、悲壮感が鮮明に表れていた。
「たっちゃんは……」
「今は緊急手術中。詳しくは何も……」
眞央は小さく首を振って、力なく答えた。そんな眞央の元へ軽快な足取りで向かったのは、大智の腕から降りた灯希だ。
「まぁしゃ!」
眞央さんと言っているつもりの灯希が足に飛びつく。
その屈託のない笑顔が、冷え切った空気を暖める、陽だまりのようだと思った。