一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 眞央は灯希に少し元気を分けてもらったようだ。その頰に少し赤みがさしていた。
 初対面になる大智に眞央を紹介し、薄暗い廊下の長椅子に並んで座る。落ち着かず、じっとしていられない。周りを歩きたがる灯希の手を引いて廊下を行ったり来たりしていた。

「由依ちゃん。灯希君」

 廊下の先から呼びかけるのは、大智の母だった。灯希はそれが誰なのかすぐに気づき駆け出していく。そしてすぐに手を繋ぐと、嬉しそうに歩き出した。

「来てくださって、ありがとうございます」
「話は聞いたわ。必要なものがあったら遠慮なく言ってね。用意するから」

 灯希と手を繋いだ彼の母は、自分の背中をそっとさすってくれていた。

「はい。……ありがとうございます」

 涙を堪えながら震える声で返す。背中には優しい温もりが伝わっていた。

 灯希に事情などわかるはずもなく、飽きてきたのかあちこち走り回りだす。別の場所にプレイルームがあると、大智の母は灯希をそちらに連れて行ってくれた。
 また椅子に戻ると、眞央と大智の間に座る。三人でただ、手術中のランプが消えるのをひたすらに待った。
 いったいどのくらい時間が経っただろう。冷たい廊下の空気に体が冷え切ったころ、ようやく見つめ続けたランプの明かりが消えた。

「終わった……」

 心臓が張り裂けそうなほど脈打つ。居ても立っても居られず立ち上がると、祈りを捧げるように両手を組んだ。両脇で大智も眞央も立ち上がり、目の前の白い扉が開くの待ちわびた。
 ガチャリと音が鳴り、扉の向こうから看護師の女性が出てくる。

「佐保さんのご家族の方ですか?」
「……は、はい」

 自分と眞央が彼女に向かい頷く。

「手術は無事に終わりました。今は容態も安定しています。状況は執刀医から説明します。もうしばらくお待ちください」
 
 それだけ手短に話すと、看護師はまた扉の中に戻って行った。その姿がもうぼやけて、霞んで見えた。

「良かっ……た……。たっちゃん、無事だった……」
「ああ。無事だ」

 気が抜けてふらつく自分を、大智は支えながら相槌を打つ。

「本当に……よかった……」

 目尻に涙を浮かべて、眞央も深く息を吐き出していた。
 その場で喜び合っていると、再び扉が開く。一斉にそちらに視線を向けて出てきた人物を見遣る。今度は男性だ。ブルーの、スクラブと呼ばれる医療用のウェアを着ている。

「……え?」

 自分も眞央も、その人の顔を見て息を呑んでいた。
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