一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
差し入れは、若木先生が選んだという豚カツ弁当だった。柔らかくて、とにかく美味しい。
「若木先生、もしかしていつもカツカレーなのは、豚カツがお好きだからですか?」
ふとお昼を一緒に取ると、いつも同じメニューだったのを思い出した。
「そう。なんか、豚カツ食べたら元気でない?」
若木先生は顔を上げると無邪気に笑う。その隣りの美礼は、缶ビールを口から離しそちらに向いた。
「若木さん、元気じゃないことなんてあります?」
「えぇ〜? 俺、そんなにいつも元気か?」
遠慮のない会話に、二人のことが気になってしまう。とは言っても聞くに聞けずソワソワしながら眺めていた。
けれどそれは大智は同じだったのだろう。恐る恐る口を開いた。
「若木先生。その……。美礼とは、いったい……」
言葉を濁して尋ねる彼に、若木先生は「ん?」と振り返る。
「あぁ。俺たち実は……」
勿体ぶるような言葉の続きを、息を呑んで待つ。
「飲み友だちなんだ。って、美礼ちゃん、大智に言ってなかったわけ?」
「それがその……。機会を失ったまま言い出せなくて」
予想と違う回答に肩透かしをくらって、彼は驚いているようだ。
「そう……ですか。僕があまり飲まないので。すみません、付き合わせてしまって」
「いいって。俺もいい気分転換になってるし。こっちが付き合わせてるくらいだよ」
二人はそんなことを言い合っているが、美礼が複雑そうな表情を浮かべたのが気になる。けれどそれ以上に、若木先生の左手の薬指にあるものが気になった。
しばらくすると話題は変わり、ふと若木先生が自分たちに尋ねた。
「そういや二人は式しないの?」
その質問に答える前に、大智と顔を見合わせる。そういえば式の話しをしたことはない。二人とも、家族で一緒に住むことばかり考えていたから。
「今のところ予定は……」
自分がそう返すと、若木先生は不思議そうな顔をした。
「なんで? 大智だって、由依ちゃんのドレス姿、見たいだろ?」
「はい。見たいです」
大智にしては珍しく、食いつくように返事をしている。
「だろ? 急がなくてもいいと思うけどやりなよ。絶対いい思い出になるって。けどその前に、大智は結婚指輪くらいしたほうがいいな。既婚者だって、猛アピールしといたほうが安全だって」
軽い口調で話す若木先生の話を、頷きながら聞いていたが、その隣りから意を決したような美礼の声が聞こえた。
「じゃあ……。独身の若木さんは、何のために指輪をしているんですか?」
「若木先生、もしかしていつもカツカレーなのは、豚カツがお好きだからですか?」
ふとお昼を一緒に取ると、いつも同じメニューだったのを思い出した。
「そう。なんか、豚カツ食べたら元気でない?」
若木先生は顔を上げると無邪気に笑う。その隣りの美礼は、缶ビールを口から離しそちらに向いた。
「若木さん、元気じゃないことなんてあります?」
「えぇ〜? 俺、そんなにいつも元気か?」
遠慮のない会話に、二人のことが気になってしまう。とは言っても聞くに聞けずソワソワしながら眺めていた。
けれどそれは大智は同じだったのだろう。恐る恐る口を開いた。
「若木先生。その……。美礼とは、いったい……」
言葉を濁して尋ねる彼に、若木先生は「ん?」と振り返る。
「あぁ。俺たち実は……」
勿体ぶるような言葉の続きを、息を呑んで待つ。
「飲み友だちなんだ。って、美礼ちゃん、大智に言ってなかったわけ?」
「それがその……。機会を失ったまま言い出せなくて」
予想と違う回答に肩透かしをくらって、彼は驚いているようだ。
「そう……ですか。僕があまり飲まないので。すみません、付き合わせてしまって」
「いいって。俺もいい気分転換になってるし。こっちが付き合わせてるくらいだよ」
二人はそんなことを言い合っているが、美礼が複雑そうな表情を浮かべたのが気になる。けれどそれ以上に、若木先生の左手の薬指にあるものが気になった。
しばらくすると話題は変わり、ふと若木先生が自分たちに尋ねた。
「そういや二人は式しないの?」
その質問に答える前に、大智と顔を見合わせる。そういえば式の話しをしたことはない。二人とも、家族で一緒に住むことばかり考えていたから。
「今のところ予定は……」
自分がそう返すと、若木先生は不思議そうな顔をした。
「なんで? 大智だって、由依ちゃんのドレス姿、見たいだろ?」
「はい。見たいです」
大智にしては珍しく、食いつくように返事をしている。
「だろ? 急がなくてもいいと思うけどやりなよ。絶対いい思い出になるって。けどその前に、大智は結婚指輪くらいしたほうがいいな。既婚者だって、猛アピールしといたほうが安全だって」
軽い口調で話す若木先生の話を、頷きながら聞いていたが、その隣りから意を決したような美礼の声が聞こえた。
「じゃあ……。独身の若木さんは、何のために指輪をしているんですか?」