一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 彼女は大智と灯希を見つめ、寂しそうな笑みを見せたあと、ゆっくりと言葉を紡ぎだした。

「大智さんは……お祖母様に、複雑な思いを抱いていらっしゃるでしょうね……」

 答えを聞かずとも、どう思っているのかは想像できる。今まで話してくれた祖母との確執。そして彼がどれほど抑圧されて暮らしていたか。
 苦々しい表情を見せる彼に、叔母はその思いを汲み取ったように頷いた。

「責めているわけじゃないのよ。お義母様は、恨まれてもしかたのないことをした。許してあげてなんて、私の口から言う言葉じゃないのもわかってる」
「そう……ですね。お祖母様さえいなければ、と思うこともありました。なんて薄情な人間なのだろうと思うことも。今もこの感情に、なかなか折り合いをつけられません」

 初めて祖母のことを語ったときと同じような苦しげな表情。それは数日前、祖母の見舞いに付き合って欲しいと切り出したときにも見せていた。
 正直に自分の心の内を語った彼に、彼女は軽く息を吐き出して頷いた。

「ずいぶん前だけど、悌志さんも同じようなことを言ってた。そのときにね、一つだけ話をしたの。知っていて欲しいことがあるって」

 真っ直ぐに彼を見つめている叔母は、そう切り出すと続けた。

「お義父様が亡くなった日に、偶然聞いてしまったの。お義母様が、お義父様の棺に向かって言った言葉を」

 彼も自分も固唾を呑んで彼女の語る言葉に耳を傾けた。一呼吸置いた彼女は、ゆっくりとまた話し始めた。

「人の愛しかたを知っていれば、貴方に愛されたんでしょうかって。……お義母様は、愛しかたも、愛されかたも知らない人だった。だから人に執着するしかなかった。それが悲しい結果しか生み出さないとわかっていても。……とても、寂しい人だったんだって」

 愛されたいと願いながら、愛されなかった人の末路に胸が痛くなる。あまりにも悲しい人生を思うと涙が溢れた。
 そんな自分に気づき、彼はそっと背中を摩ってくれていた。

「やっと……腑に落ちました。どうして父さんや僕に執着したのか。お祖父様の代わりだったんですね。一番愛されたい人に愛されなかったから……」

 泣きだしそうに顔を歪め、静かに話す彼の声は震えていた。それを見て、自然と彼の手を握っていた。

「私はお義母様に、少しでも愛されることを知って欲しい。だから私は、お義母様にできるだけのことをして差し上げたいんです」

 最後にきっぱりと、彼女は覚悟を決めたようにそう話した。
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