一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
終章 紡がれていく未来
冬の入り口に始まった三人での生活は、穏やかで優しい時間の連続だった。
特に灯希の成長を二人で見守っていけることは何よりも幸せだった。昨日できなかったことが、今日できるようになる。そんなことは日常茶飯事で、子どもの成長の目覚しさを改めて二人で感じた。
家族で過ごす最初のクリスマスを過ぎ、親戚が集まり賑やかに迎えたお正月を過ぎ、冬の寒さとは裏腹に温かな日々を過ごした。
けれど厳しい寒さが襲った二月のこと。突然の別れが訪れた。
祖母が亡くなったと連絡を受けたのは、暦の上では春となった土曜日の朝だった。
祖母はその日、穏やかな表情で眠ったまま息を引き取っていたのだという。
『苦しまずにあの世に行けたのは、幸せだったかもな』
通夜の席で、叔父がポツリと言ったのは印象的だった。
複雑な感情を抱いていたとしても、憎んでいたわけではないのだ。
『そうですね……』
叔父の言葉に、彼は寂しげに答えていた。
本格的に春の気配を感じ始めた三月下旬。祖母の四十九日の法要が行われた。
阿佐永家の菩提寺は、歴史ある大きなお寺で、そこに祖父と父の眠るお墓もあった。そして同じ場所に、祖母の遺骨も納められた。
「由依。もう一度、墓に参ってもいい?」
法要も終わりそれぞれが帰路についたタイミングで、大智に尋ねられた。
「はい。もちろん」
灯希の手を引き、三人で墓のある場所に向かう。春のお彼岸の時期とあってお参りする人たちの姿がある。その人たちは、境内に咲き始めた桜の花を見上げて顔を綻ばせていた。
「次の休日は、三人で花見に行こう。きっと見頃だ」
「いいですね。私、お弁当作ります」
「それは楽しみだ」
彼は嬉しそうに笑う。名所じゃなく、たとえ近所の公園だとしても楽しいだろう。また一つ、家族の思い出が増えるのだから。
再び"阿佐永家の墓"と刻まれた墓石の前に辿り着く。自然と手を合わせていると、自分たちの前で灯希も手を合わせていた。灯希にとっては、仏壇に手を合わせることが日常だからか、ごく自然の動作のようだった。
隣りで顔を上げた彼は、しばらく墓を見つめたあと言葉を発した。
「お祖母様。貴女が手に入れたいと心から望んだものを、僕は彼女たちに惜しみなく与えます。……見ていてください」
本人に直接伝えることは叶わなかったけれど、きっと彼は今、脳裏に祖母の姿を思い浮かべているだろう。
真っ直ぐに向けられた言葉は、彼の決意の現れ。そして誓いの言葉のように響いた。