一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
――季節はまた巡る。
花が咲き乱れる春、灯希は二才を迎えた。仕事でたくさん見てきたのに、世間でいうイヤイヤ期に突入した灯希はなかなかで、思い悩む自分に彼は手を差し伸べてくれた。
蝉たちが声高々に叫ぶ夏は過ぎ、自分たちが再会した秋が来て、時が過ぎるスピードの速さを感じる。
結婚記念日には二人でささやかに祝い、その愛を確かめ合った。
そのうちにまた小雪が散らつき初め、ひっそりと年を越してしばらくすると、喪に服す期間は終わりを告げた。
家族で過ごす、二度目の春。まもなく三才になる灯希の誕生日の少し前である五月の終わり。自分たちはその日を迎えた。
「――少し唇を開けてもらえますか? あ、そのくらいで大丈夫です」
小柄な自分よりさらに小柄なのに、大きなお腹でキビキビと動く彼女はそう言うと、自分の唇に筆をのせる。プロのモデルのヘアメイクも担当しているという彼女の顔は真剣そのものだ。たくさんのアイテムを使い、リップを塗り重ねる姿は画家みたいだと思いながら、されるがままに顔を上げていた。
「よし! できました」
自分の仕事に満足気に、彼女は顔を綻ばす。
「ありがとうございます」
普段ほとんどメイクをしないから、どんな自分になっているのかドキドキする。樹が仕事の伝手を使って、彼女に今日のヘアメイクを依頼してくれたのだ。絶対に間違いはないはずだ。
「仕上がり、どうですか?」
自分の座っていた椅子を鏡に向かってくるりと動かすと、鏡越しに彼女に尋ねられる。
鏡の中に、真っ白なドレスを纏い光輝く自分がいた。まるで誰か別の人の写真でも眺めているような、そんな気分だ。
「凄い……。本当に私、なんですか?」
「もちろん正真正銘、由依さんですよ。樹さんもきっと喜んでくれますね」
ニコリと笑う彼女に勇気をもらう。童顔でいまだに年相応に見えないのがコンプレックスになっているが、鏡に映る自分は大人びていて、彼の横に並ぶ自信が湧いた。
「さっちゃ〜ん。こっちはどう?」
明るい口調でメイク室に入ってきた礼服の男性が、彼女に呼びかける。彼は彼女の夫で、今日写真を撮ってくれるプロのカメラマンだ。
「あ、睦月さん。どうですか? 素敵でしょう?」
「本当だ。幸せオーラが眩しいくらいだね。それにしても、樹君の渾身のウェディングドレス。由依さんのためだけにデザインしただけあるなぁ。シンデレラフィットって言葉がぴったりだよ」
彼は目尻に笑い皺が寄せながら、笑顔で言った。
花が咲き乱れる春、灯希は二才を迎えた。仕事でたくさん見てきたのに、世間でいうイヤイヤ期に突入した灯希はなかなかで、思い悩む自分に彼は手を差し伸べてくれた。
蝉たちが声高々に叫ぶ夏は過ぎ、自分たちが再会した秋が来て、時が過ぎるスピードの速さを感じる。
結婚記念日には二人でささやかに祝い、その愛を確かめ合った。
そのうちにまた小雪が散らつき初め、ひっそりと年を越してしばらくすると、喪に服す期間は終わりを告げた。
家族で過ごす、二度目の春。まもなく三才になる灯希の誕生日の少し前である五月の終わり。自分たちはその日を迎えた。
「――少し唇を開けてもらえますか? あ、そのくらいで大丈夫です」
小柄な自分よりさらに小柄なのに、大きなお腹でキビキビと動く彼女はそう言うと、自分の唇に筆をのせる。プロのモデルのヘアメイクも担当しているという彼女の顔は真剣そのものだ。たくさんのアイテムを使い、リップを塗り重ねる姿は画家みたいだと思いながら、されるがままに顔を上げていた。
「よし! できました」
自分の仕事に満足気に、彼女は顔を綻ばす。
「ありがとうございます」
普段ほとんどメイクをしないから、どんな自分になっているのかドキドキする。樹が仕事の伝手を使って、彼女に今日のヘアメイクを依頼してくれたのだ。絶対に間違いはないはずだ。
「仕上がり、どうですか?」
自分の座っていた椅子を鏡に向かってくるりと動かすと、鏡越しに彼女に尋ねられる。
鏡の中に、真っ白なドレスを纏い光輝く自分がいた。まるで誰か別の人の写真でも眺めているような、そんな気分だ。
「凄い……。本当に私、なんですか?」
「もちろん正真正銘、由依さんですよ。樹さんもきっと喜んでくれますね」
ニコリと笑う彼女に勇気をもらう。童顔でいまだに年相応に見えないのがコンプレックスになっているが、鏡に映る自分は大人びていて、彼の横に並ぶ自信が湧いた。
「さっちゃ〜ん。こっちはどう?」
明るい口調でメイク室に入ってきた礼服の男性が、彼女に呼びかける。彼は彼女の夫で、今日写真を撮ってくれるプロのカメラマンだ。
「あ、睦月さん。どうですか? 素敵でしょう?」
「本当だ。幸せオーラが眩しいくらいだね。それにしても、樹君の渾身のウェディングドレス。由依さんのためだけにデザインしただけあるなぁ。シンデレラフィットって言葉がぴったりだよ」
彼は目尻に笑い皺が寄せながら、笑顔で言った。