一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「では新婦様、ご準備はよろしいでしょうか?」

 はい、と返事をしながら頷くと、チャペルの扉が開かれる。そこから真っ直ぐ伸びたバージンロードの先に、大智が立っている。今はどんな顔をしているのだろうか。まだその表情ははっきり見えなかった。
 樹と一礼してチャペルの中に入ると向かい合う。
 本来なら、母親が最後の身支度として行うベールダウン。そして父親が行うエスコート役の、両方を樹にお願いしていた。両親亡きあと、誰がなんと言おうと樹がその役目を担ってくれていたのだから。

「由依。すでに幸せだろうが、もっともっと、永遠に、幸せでいるんだぞ」

 目尻に涙を滲ませながら、樹は眞央が作ったベールを持ち上げた。

「たっちゃん。今まで支えてくれてありがとう。私、これからもずっと、幸せな姿を見せるからね」

 もらい泣きしそうなのを堪えながら言うと、樹は笑みを浮かべた。

「この姿、勇さんと由梨さんに見せたかったな」

 しみじみとそう言いながら、ふわりと下ろされたベールが、視界を白く染める。

「きっと二人とも、見てくれてるよ」

――由依!

 記憶の中の両親が、笑顔で呼びかけている。今ここに、二人の温かな気配を感じた気がした。

 また前を向くと樹の腕を取りゆっくりと進み始める。

「転ばないようにな」
「大丈夫。眞央さんがヒールのない靴を用意してくれたし、たっちゃんも歩きやすいようなドレスに直してくれたから」

 一歩一歩踏みしめるように、二人で歩く。
 何列もある参列者の席はほとんどが空席で、今日使っているのはたったの二列だけ。
 新婦側の一列目には両親の写真が置いてあり、新郎側には義父の写真を持つ義母が、灯希といてくれていた。二列目の新郎側には叔父と家族、そして若木先生。新婦側には眞央と、それからバランスを取るため美礼母子が並んでくれていた。
 祭壇に近づくとみんなの表情がはっきり見えてくる。心底自分たちを祝ってくれている。そんな思いをひしひしと受け取った。
 時間をかけ、ようやく彼の前に辿り着く。
 ライトグレーのジャケットに、ダークグレーのベストとスラックスを組み合わせたモーニングコートは、樹が『仕方ない。大智のも作るよ』なんていいながら作ってくれたものだ。それは彼の美しさをいっそう際立たせていてた。
 そんな彼は、先ほどから何度も白いハンカチを顔に持っていっていた。汗でも拭っているのだろうかと思っていたが、目の前まで来るとその理由がわかった。
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