一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 付き合った相手すらいないのに、それに必ず結婚できる確証もないのに、こんなことを考えてしまう自分が嫌になる。

「……そうだね。確かに夫婦は離婚すれば他人に戻る。それに今の時代、それは珍しくない」

 職業柄、そんな人はたくさん見てきたのだろう。大智の言葉には実感がこもっていた。

「血が繋がっていれば、他人になることはありません。私は自分の両親がそうしてくれたように、無償の愛を子どもに注ぎたいんです」

 綺麗事だと思われてもいい。酔った勢いの戯言だと笑われても。そんなことを思いながら由依は語っていた。
 けれど大智は笑うことなく、由依の話に耳を傾けていた。そしてポツリと言葉を発した。

「血が繋がっていても、諍いが起こることはある。残念なことにね。でも瀬奈さんなら……きっと……大丈夫なんじゃないかって思うよ」

 そう言って大智はふわりと笑う。その優しい顔つきに、好意を向けられていると錯覚してしまいそうだった。
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