一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 笑い飛ばされるどころか、自分の思っていたことを肯定され、少なからず驚いていた。けれど背中を押してもらえたような気がした。
 
「ありがとう……ございます」

 お礼を言う由依に、大智はより口角を上げる。勘違いしてはいけない、と思うのに勝手に体温は上がっていく。酔っていてよかったかも知れない。顔が赤くなっていても誤魔化しがききそうだから。

「変な話、聞かせちゃいましたね。もう行きましょうか」

 気恥ずかしくなり、取り繕うように勢いよく立ち上がり大智に背中を向ける。

「待って」

 どこか切羽詰まったように聞こえる声とともに大智が立ち上がった気配がする。振り返ると街灯に照らされた、真っ直ぐに自分を見つめる大智が目に入った。そのまま由依は、吸い寄らせられるようにその瞳から視線を外せないでいた。

「さっきの話……だけど……」
「は、い……」

 他に聞きたいがあるのだろうか? 由依は首を傾げながら大智を見上げていた。

「僕では……駄目かな?」
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