一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「えっ?」

 何のことを指しているのか、すぐには理解できなかった。由依がポカンと口を開けたまま顔を上げていると、大智は続けた。

「君の子どもの……父親に……」

 そこまで言ってから、急に大智は頰を紅潮させると顔を逸らす。

「ごめん、下心があるわけじゃないんだ。純粋に協力したいと思っただけで」

 口元に手を当てて恥ずかしそうにしている大智の姿を見て、一気に距離が縮まったような気がした。全てが完璧な人に見えていたのに、その仕草が可愛らしいとも思ってしまう。
 そんな大智が、邪な気持ちで申し出たとは思えない。それでなくとも、平凡でとりわけて可愛いわけでも、綺麗なわけでもない自分を、わざわざ相手にする必要などないのだから。
 大智はまだほんのりと赤い顔をまた由依に向ける。

「君がいいならどんな方法でも協力する。子どもにもできる限りのことはしよう。結婚は……きっとできないけれど」

 大智は至って真面目に告げていた。
 けれどさすがに話が飛躍し過ぎていて、由依のほうが驚いていた。
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