一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 どうして知り合ったばかりの自分にここまで言ってくれるんだろう? 釈然としないが、大智が本気で言っているのは伝わってきた。

「養育費なんて……」

 由依は首を振ってその申し出を断る。そこまでしてもらう謂れはない。あくまでもこれは自分でなんとかしなくてはいけない問題だ。

「大丈夫です。……私、お金は身に余るほど持ってます。ほとんど手を付けていないですし、使う予定もないので」

 弁護士ならこれだけで何が言いたいのか理解してくれるだろう。両親を亡くした代わりに手にした額は、子どもを一人どころか二人、大学まで優に出せるほどだった。
 けれどその多額のお金を手にして嬉しいなどと思えるはずはない。逆に虚しさが募るだけで、口座に放置されたまま、到底手をつける気にはなれなかった。

「わかった。で……。本当に……いいの? 今日でなくても、また気持ちが固まってからでも……」
 
 躊躇うように言い淀みながら大智は尋ねる。
 それに由依は、首を振って答えた。
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