一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「いえ。今日が……いい、です」

 酔っているからと言うわけではないが、時間を置き素面になればきっと勢いを失ってしまう。何にでもタイミングがある。それが今この時なんだと、由依は自分に言い聞かせた。
 大智は言葉なく頷く。そしてゆっくりと左手を差し出した。

「……握手、ですか?」

 その意図が掴めず由依が尋ねると、大智は薄らと微笑んだ。

「手を繋いでもいい? 少しでも触れるのに慣れておいたほうが、緊張しないと思って」

 女性の扱いには慣れていないのだろうか。それともただ、男性に慣れていない由依のために気を遣っているだけなのだろうか。このスラリと美しい大きな手に、自分の手を重ねるのだと思うだけで緊張が走る。けれど確かに、ここで緊張している場合ではないのだ。

「では……。お願いします」

 恐る恐る由依は自分の右手を差し出されたままの手に重ねた。途端にギュッと握られ、その温もりが手のひらを包み込んだ。それだけでドキンと鼓動が高まった。

「それで……いったい、どこへ……」
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