一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「飲み足りなかったんですか?」

 心許なげにソファに腰を掛け、由依はこちらに向かってくる大智を見上げて尋ねる。大智は気まずそうにぎごちない笑みを浮かべると、由依の隣に座った。
 大智の指がプルタブにかかり、カシュっと小気味の良い音を立てて蓋が開く。そこから白い泡が溢れていた。

「……緊張を解そうと思って」
「緊張? 私の……?」

 大智はフッと息を漏らしながら緩やかに笑う。楽しいからではなく、なんとなく自分を嘲笑うような笑みだった。

「ううん。僕のだよ」

 そう言うと缶を口に運ぶ。ビールを水のように流し込む大智の喉が上下するのを由依は眺めていた。

「阿佐永さんも……緊張、してるんですか?」

 意外だった。自分が緊張しているのは痛いほど感じていたが、大智はいたって冷静に見えていたから。
 唇から缶ビールを離すと大智は由依に向き、そのまま腕を膝に下ろした。

「それなりにね。……それより瀬奈さん。先にシャワーを浴びてきたらどう? ここのホテル、バスルームがセパレートになっているから、ゆっくり浸かってくるといい」
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