一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 なんとなくはぐらかすように大智は話題を変える。けれどその内容は由依の緊張を一層高まらせた。

「あっ、えっ、はい」

 カァッと熱くなる頰を嫌でも意識しながら、由依は慌てふためく。それを見て大智は楽しそうに吐息を漏らした。

「一人じゃ寂しい? 一緒に入るかい?」
「へっ? い、一緒に⁈」

 情け無い声を上げてまごつく由依を見て、大智はハハハと笑い声を上げた。そこでようやく由依は気づいた。

「かっ、揶揄ってますか?」

 由依が頰を膨らませていると、大智は表情を緩めたまま腕をサイドテーブルに伸ばした。天板に缶が触れコンと特有の音が鳴る。そこから離れた手は由依に近づき、そっと髪に触れていた。
 少なくて細いことが悩みの、染めてもいない黒い髪。伸ばすことが苦手で、学生時代から変わらずようやく肩に付くほどの長さの髪に大智の指が滑った。

「半分揶揄ってるけど、半分本気、かな?」

 そう口にする大智は、楽しげな表情で由依を見つめていた。
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