一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
(と、言ったものの……。どうしたらいいのか……)

 すでに由依の前には予約してあったコース料理が二人分並び始めていた。そうたくさん食べるほうでもない由依が一人で食べ切れる量でははない。
 今からでもキャンセルできないだろうかと考えていると部屋の扉が開く。入ってきたのは、季節に合わせたノーネクタイのワイシャツ姿で、大きなビジネスバッグを携えた男性たちだった。

「にしても、まだまだ暑いよなぁ」
「ビール‼︎ ビール‼︎」
「お前、気早すぎ!」

 そんなことを言いながらガヤガヤと入ってきた三人は、そのまま隣の四人掛けのテーブルについた。

「とりあえずビールで……。食いものは?」
「悪い。人数不確定だったからコースは予約してない。単品適当に注文して」

 一人がそう言うと、他の二人に品書きを渡している。

「俺、絶対枝豆な。あと……」

 そんなことを言いながら三人は品書きを眺めていた。

 由依はその会話を耳にしながら目の前の料理を眺めた。
 少量ずつ酒の肴が盛り付けられている八寸に、刺身の盛り合わせ。テーブルに置かれているコース料理の品書きを見る限り、これからまだ数品出てくることになっている。

(迷惑……かも、知れないけど……)

 料理を残すのは気が引けるし、なによりまだほとんど自分も手をつけていない。それなら、と由依は思い切って立ち上がった。

「あのっ。すみません」

 隣のテーブルに近寄り意を決して話しかけると、三人は一斉に顔を上げた。
 年はおそらく由依より少し年上だろう。三人ともどちらかと言えば真面目そうに見え、由依は内心ホッとしていた。
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