一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 不安が顔に出ていたのか、諭すような口調で大智は言った。なのにその台詞とは裏腹に、大智は熱を帯びた瞳で由依を見つめていた。それは単なる男性としての本能なのか、それ意外の何かがあるのか、由依にわかるはずもなかった。
 スルッと自分の頰を撫でるその手の熱さに、ピクリと由依の肩が揺れる。嫌なわけじゃない。体の底から湧き出るヒリヒリとした不思議な感覚。それに身を任せてみたい、と思った。

「阿佐永さんはやめたいですか? 私は……やめたくないです」

 大智は驚いたように目を見張ったあと、表情を緩めて唇の端を少し上げた。

「やめたくないよ。君と一緒に……朝を迎えたい」

 自然と、緩やかに、距離が縮まって行く。視線は絡み合いもう解けそうにない。肌に吸い付くように触れている指が頰から顎を伝い、由依を誘った。

「キス……して、いい?」

 小さく囁くように尋ねられる。

「は……い……」

 そう答えるか細い返事は、すぐに唇の奥に閉じ込められていた。
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