一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「は……い……」

 無意識に額に手をやり、俯いたまま由依は返事をした。今はシャワーで汗を流したいというより、この火照った体を落ち着かせたい。

「僕のことは気にしなくていいから、ゆっくりしてくるんだよ?」
「ありがとう……ございます」

 大智の顔を見れないまま由依は立ち上がると、そそくさと立ち上がる。そのままバスルームに繋がっている扉に向かった。横に付いていた明かりのスイッチを押し、由依は扉の中に入る。整然としたパウダールームの大きな鏡の前で、大きな溜め息を吐いた。けれど顔を上げることはできなかった。自分がどんな顔をしているのか見なくてもわかる。それに見てしまったら、余計に自覚してしまいそうだった。

(私、大丈夫……かな……)

 知識はあるし、短大時代には友人たちの明け透けな体験談も聞いたことはある。そのときはどこか、自分にはまだ遠い世界の話しだと思っていた。そのまま出会いもなく、気づけば二十六になってしまっていた。
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