一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 入ってきた男性を見て、由依は息を呑んだ。
 高身長でスラリとした体を包むダークネイビーのスーツは、どこにも隙がない。同色のソリッドネクタイも歪むことなくキチンと締められていた。その卒のない着こなしは、弁護士という肩書に全く引けを取ることがなかった。
 漆黒の髪はサイドから自然な感じに緩やかに流されていて、形の良い輪郭を飾っている。それに何よりその顔は、眉目秀麗という言葉が真っ先に浮かんでしまうほど整っていた。

「すまない。遅れて」
「大智! よかった、来てくれて!」

 由依の向かいの中村はすぐさま立ち上がると彼の元に寄り、背中を押すようにしてこちらへ促した。
 けれど彼にしてみれば、見ず知らずの人間が座っているのが不思議だったのだろう。

「えっと……」

 由依と目が合うと、明らかに戸惑いながら小さく声を漏らした。
 よく考えれば、今この四人掛けのテーブルは埋まっている。どう考えても自分は邪魔者だ。

「私、そろそろ失礼しますね。ご友人も揃われたことですし!」

 慌てて立ち上がると「えっ! 帰るの?」と佐倉が残念そうに声を上げる。由依が席を譲ろうと椅子から離れると、大智は由依をじっと見つめていた。

「佐倉の彼女……じゃないの?」

 訝しそうに尋ねられ、由依は首を振る。

「すみません。全く関係なくて。たまたま隣りの席で、あのっ」

 しどろもどろになりながら由依が答えると、中村が助け船を出す。

「まあまあ。これには深〜い事情があって。瀬奈さんもまだ大丈夫なら大智を紹介させてよ。こうすれば大丈夫」

 中村はそう言うと元々由依がいたテーブルの一つをこちらに寄せる。

「瀬奈……さん?」
「あっ、はい。瀬奈由依です」

 名前を聞いてどこか不思議そうな表情を見せる大智に、由依は名前を告げると自然に頭を下げた。

「阿佐永……大智です。よかったら、もう少し話しませんか?」

 大智はそう言って薄らと笑みを浮かべた。
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