一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 中村がガタガタと音を立てテーブルと椅子を動かし終えると「大智、座れよ」と促す。

「ありがとう。その前に与田。おめでとう。これ気持ちだけ、だけど。お祝い」

 落ち着いた声でそう言うと、大智は手に下げていた茶色の紙袋を差し出した。

「うわぁ! サンキュー、大智!」

 興奮気味に立ち上がり、与田は嬉しそうにそれを受け取っている。そんな与田を見ながら大智は目尻を少し下げると続けた。

「たいしたものじゃない。あまり期待はしないでくれ」

 素っ気なく言いながら大智は中村の横の席に着いた。

「何? 何?」
「……絵本だよ」

 袋の中を覗きながら無邪気に尋ねる与田に、大智はおしぼりで手を拭きながら素っ気なく答える。すると三人とも納得したように「ああ……」と口を揃えた。

「大智らしいな」

 佐倉はフフッと笑うと、四人のやりとりを黙って見ていた由依に顔を向けた。

「大智は高校の頃、本の虫でさ。学校の図書館中の本読んだんじゃないかってくらいだったんだ」
「話を盛らないでくれ。半分も読んじゃいないよ」

 恥ずかしそうに返す大智に、席に戻った与田が顔を覗かせて声を上げる。

「いやいや、盛ってないだろ。事実じゃん」
「そうそう!」

 今度は中村が与田に相槌を打つ。それに照れているのか、大智はほんのりと頰を紅潮させていた。

「充分盛ってるだろ」

 盛ってないって! と四人は笑いながら会話を繰り広げている。その表情は、みな学生時代に戻ったように無邪気なものになっていた。その様子に仲の良さが伺えて、由依はついクスリと笑い声を漏らした。

「皆さん、本当に仲がいいんですね。羨ましいです。そんなお友だちがいらっしゃるって」

 由依のその言葉に、それぞれがお互いの顔を見合わせる。誰もが口を噤んだまま。けれど同じように思ったのだろう。皆は合図したように微笑みを浮かべていた。
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