一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 全てのエリアを周り、水族館を出る頃にはもう午後一時を回っていた。

「遅くなったね。お昼にしようか。行きたい店はある?」
「そうですね……」

 大智の好みはなんだろうかと考え始めたところで、どこからか着信音が聞こえた。それに気づいた大智はスラックスのポケットからスマートフォンを取り出した。そして、表示されているだろう名前を確認したあと、らしくないほど眉を顰めて不快感を露わにしていた。

「私のことは気にせず出てください」

 仕事の連絡なのだろうか。由依のその台詞にも一瞬躊躇していた様子だが、大智は「ごめん、少しだけ」と言いながら画面に触れていた。

「はい」

 大智はそれだけ返すと、由依に背を向ける。由依も会話を耳に入るのも失礼だと思い、大智から少し距離を取った。

「――えぇ。わかっています。ですが所用が入ったとお伝えしたでしょう」

 離れていてもなんとなく大智の声が聞こえてくる。表情は見えないが、明らかに苛立っているようだった。
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