一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 昨日出会ったばかりで、その人となりなんてわからない。けれど今の大智は、らしくないと言いたくなる雰囲気を醸し出していた。

「――ですので、必ず顔を出します。それまで猶予を……」

 緊迫した様子に、もう少し離れよう思うが足を動かせないでいた。そうしているうちに、大智の声は切迫したものに変わっていた。

「それは関係ないはずです。待ってください! 咲子(さきこ)さん!」

 叫ぶように言ったあと、盛大に溜め息が続いた。

(咲子……さん……)

 交際相手がいたのだろうか? そんな不義理をするような人じゃない。息を呑んだまま由依はその場で固まっていた。
 大智はスマートフォンをしまうと振り返る。悔しさのようなものが滲み出した表情で、由依の側までやって来た。

「…………ごめん」

 絞り出すように言った声は震えている。

「どうして謝るんですか? もしかして、元々大事な用事があったんじゃ……」

 大智は小さく首を振ると「大事なんかじゃないよ」と答えたあと顔を上げた。

「でもごめん。これからすぐ、帰らなくてはならなくなったんだ」
「気にしないでください。私、この辺りはあまり来ないので、ブラブラしてから帰ります」
< 91 / 253 >

この作品をシェア

pagetop