一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
由依は努めて明るく言うが、大智の表情は晴れることはない。そのままゆるゆると腕を動かすと、ポケットから名刺入れを取り出した。大智は流れるような仕草で名刺を取り出すと差し出した。
「僕の連絡先を渡しておくから。表の番号は社用だけど、私用のは裏に書いておいた。何かあったら……いや、無くても連絡して」
ここで受け取らないのは変に思われてしまう。おずおずと手を伸ばしそれを受け取った。
「あと、由依の電話番号を教えてくれないか? また僕からも連絡したいから」
出鱈目を言うのは簡単だ。けれど不審に見えるだろう。
「私の番号は――」
大智はその番号をその場でスマートフォンに登録すると、由依に申し訳なさそうに言った。
「今日は送れなくてごめん。じゃあ……また」
由依は精一杯の笑顔を向け答える。
「はい。色々とありがとうございました」
去っていく背中を目に焼き付けていた。その姿が見えなくなるまでずっと。
きっともう、会うことはないだろう。自分からは連絡しないと心に決めていた。そして伝えた番号は自分のものではない。もう何年も掛けていない、亡くなった母の使っていた番号なのだから。
「さよなら。大智さん……」
小さく呟く声は、都会の喧騒に掻き消されていた。
「僕の連絡先を渡しておくから。表の番号は社用だけど、私用のは裏に書いておいた。何かあったら……いや、無くても連絡して」
ここで受け取らないのは変に思われてしまう。おずおずと手を伸ばしそれを受け取った。
「あと、由依の電話番号を教えてくれないか? また僕からも連絡したいから」
出鱈目を言うのは簡単だ。けれど不審に見えるだろう。
「私の番号は――」
大智はその番号をその場でスマートフォンに登録すると、由依に申し訳なさそうに言った。
「今日は送れなくてごめん。じゃあ……また」
由依は精一杯の笑顔を向け答える。
「はい。色々とありがとうございました」
去っていく背中を目に焼き付けていた。その姿が見えなくなるまでずっと。
きっともう、会うことはないだろう。自分からは連絡しないと心に決めていた。そして伝えた番号は自分のものではない。もう何年も掛けていない、亡くなった母の使っていた番号なのだから。
「さよなら。大智さん……」
小さく呟く声は、都会の喧騒に掻き消されていた。