一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 一瞬何のことだろうと考えて、そういえばと思い出す。
 この園の運動会は、零歳児は自由参加で観に来るだけで、一歳児は親子競技と決まっている。そして、二歳児から演技の披露が始まる。
 由依はその二歳児の補助として練習に参加していた。練習では上手に踊っていた子も、当日はたくさんの観客に圧倒されて固まってしまう子もいる。

「あっくんが大泣きして、歩き出したときはどうしようかと思ったけど、瀬奈先生のおかげで落ち着いてくれて、ほんと助かった」

 勢いよく給食を食べながら松永先生は言う。

「そんな。無我夢中だっただけで。あっくんが持ち直してくれてよかったです」

 あっくんは練習ではとても上手にできていた。だが緊張したのだろう。泣き始めたと思ったらフラフラと歩き出してしまった。松永先生は正面で園児に見えるよう踊っていて、もう一人の補助の保育士は反対側にいた。由依が慌てて駆け寄ったのだ。

「もう、後ろの理事長の圧が凄くて。途中で一回転するじゃない? あのとき本部見たら、怖い顔してたわぁ」

 今では笑いながら話しているが、そのときはとても笑えなかっただろう。由依は引き攣りながら乾いた笑いを返していた。
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