一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「この丸いものが袋、胎嚢だね。ここ、チカチカしているでしょう?」

 モニター上で矢印がその場所をぐるぐると回っている。その囲まれた部分には確かに何かが点滅していた。

「は……い……」
「これが心臓ね。元気に動いているよ」

 改めてじっと、その点滅を食い入るように見る。
 自分の中に宿った命が、鼓動を刻んでいる。そう思うだけで涙が滲んできた。
 両親が亡くなったとき、神様なんていないと思った。けれど今は、神様はなんて皮肉なことをするんだろうと思う。たった一夜で願いを叶えてくれるなんて。

 超音波検査が終わり、診察室に戻ると先に医師が座っていた。柔和な笑みを浮かべた医師は、由依に紙を差し出した。

「これがエコーの写真。予定日は五月の終わり頃だね。次は母子手帳をもらって二週間後に来てください」

 受け取った紙にはさっき見たモニターの画面と同じものが印刷されていた。

(これが……私の子……)

 実感などまだ湧くはずもない。けれど確かにここにいるのだ。
 嬉しさと後ろめたさが混ざり合った複雑な気持ちで、由依は自分のお腹に手を当てた。
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