たゆたう、三角関係
店員さんが個室の襖を開け、端に座ってた人に「ラストオーダーになりますが」と声を掛けていた。

やっと解放される。

サークルってこんなに疲れる場なんだろうか。
私はチラリとスマホで時間を確認する。終電まで意外と時間がない。

顔を上げると奥に座ってた藤遼平と目が合った。
藤遼平は「あっ」と驚いた表情をする。そして軽く手を挙げて言った。

「ホントすみません、ちょっと終電やばいんで、僕そろそろ帰ります」

彼の一言に周辺の、さっき顔をひょっこり出した可愛い人や男の先輩たちが「えー、そっかー!」「もうそんな時間かーはやーい」と言いながら送り出す空気を作る。

黒くて大きなショルダーバッグを肩にかけて立ち上がると、私の方を見た。

「金子さんは帰らなくて大丈夫?」

みんながいる中、名指しでまっすぐに聞かれた私は驚いて「え、あ、そっか、帰らないと」と言いながらスマホをバッグにしまい、立ち上がる。

ゆうのすけさんが「えー早くない?カラオケ近くにあるよ」と言ってるのを無視するように、「すいませーん」と頭をペコペコしながら出口の方まで皆さんの後ろを通らせてもらった。

藤遼平は私が出口のところまで来ると「お先に失礼します!」と礼儀正しく頭を下げ、私もそれに合わせて頭を下げた。

「かわいー」「真面目!」「私なんて終電の時間忘れちゃったー」といろんな声に押し出されるようにして店の外に飛び出した。


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