たゆたう、三角関係
23時半、帰る人は帰って残る人は残った時間。紗里はカーテンの下で横になっていて、てつじさんがバスタオルをその体に掛けてあげている。

藤くんは私の隣に来て「アイス買いに行かない?」と小声で言ってきた。

「あ、いく」と、バッグから財布だけを取って立ち上がる。

「また二人で行くんだ」

てつじさんが奥の方から笑って言うと、「ほんと仲良いよねー」とミクさんが続ける。

「何もないから逆にね」

藤くんはサラリと返しながら玄関に向かうので、そそくさと私も後に続いた。

夕方まで降ってた雨で地面は濡れていたけど、今はもうただ灰色の雲が浮かぶだけの空だった。

藤くんはボキボキッと首を左右に曲げて目をこすった。

「ねみー」

そんな声は真っ暗な空に吸い込まれて行くようだ。

続けて彼は手で隠すこともなく豪快にあくびをして伸びた。

「そうだ、本渡してなかった」
「あ、あれ月曜までに読めって言われてたっけ」

藤くんはうんと頷いて私を見る。

「明日渡そっか、何か予定ある?」
「ない」
「明日帰る時俺ん家寄って読んでいけばいいよ」

雲隠れしていた月が白く光り始めた。タクシーが静かに私たちの脇を通り過ぎて行く。

寝静まった街に一人煌々と輝いてるコンビニ。

さっきから藤くんの左腕と私の右腕が当たってることに気付いてるんだろうか。

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