たゆたう、三角関係
ドーナツ
多摩川は静かにゆらゆらと流れゆく。
当たり前にいつも見てきた景色だったけど、なぜか進学してからは多摩川の土手を歩くことも少なくなった。

湿った風が肌に当たる。梅雨の風だ。
7月半ばまでこんな感じなんだろうか。

土手に生えた草はまだ湿ってるようだ。昔は寝っ転がる事も好きだった。

「何やってんの」

聞き慣れた懐かしい声が近くでした。
土手へと向けられていた視線を声の方に向ける。

相変わらず細くて顔が小さくて、少しヤンチャそうな雰囲気を残したままの晴人が自転車に跨っていた。

「土手見てた」
「そのまま川に溺れていきそうな顔してたから声掛けちゃった」

高校の時からよく身につけていたニットキャップとパーカー。この人今でもこうなんだ。
少しクセのある歯並びを覗かせる。

「なんでここいるの」
「今からふじん家行ってゲームする」

ああ、そういえばこの人は高1の時からよくその言葉を口にしていたな、と脳みその中で点と点がキレイに繋がった。

「実琴も行く?」
「行かないよ」
「あ!!やっべ、何か買ってこいって言ってたんだ、ドーナツかな」

彼は構ってほしそうな表情をする。わざとそう言ってるように聞こえた。

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