たゆたう、三角関係
目を覚ますと、「起こすよ」と言ったはずの藤くんもすぐ目の前で寝ていた。少し重みのある腕が私の体に乗っている。

まだ窓から光が差し込んでいる。夜ではないはずだ。サイドテーブルに置かれた時計を見ると18時半だった。

19時にお店を予約してたから準備して行かないといけない時間だ。

隣で寝てる藤くんを起こすと綺麗に目を覚ました。

「え、俺もしかして寝てた?」
「寝てた」
「今何時?」
「18時半」

時間を伝えても私とは違い、のんびりと伸びをした後に「行くかー」と呟く。

私は少し化粧を整え髪を結び直した。

藤くんは眠そうにベッドに転がりながらスマホをいじってたが、45分近くなってバタバタと準備し始めた。

海に面した扉を開けると、その隙間から光が差し込む。

「きれい」

私の口からも藤くんの口からも同じ言葉が漏れた。
目の前に広がる海が、夕焼けで紫と青とピンクと赤い夕陽に照らされている。
雲も太陽の光を反射し、うろこが光に濃淡をつける。
雲と海面に挟まれた一面の幻想的な世界が私たちを包みこんだ。

「マジックアワー」

隣で藤くんが言った。

「すごいね」
「ね」

私たちは言葉少なにその景色に見惚れて佇んでいた。時間がないのに、体が動かなくて、もっと見ていたくて、この一瞬がずっと続けばいいと願ってしまう。

「一緒に見れて良かった」

藤くんが言った。
え?と思ったけど、彼は恥ずかしそうに笑って「行こっか」と歩き出した。

はい、と振り向いて右手を差し出す。その手に左手を乗せると、軽く肩をぶつけ合いながら店へと向かった。
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