たゆたう、三角関係
「晴人と何か話したの?」
「うん、『ちゃんと大事にしろよ』って言われた」

ほのかに藤くんが私を見下ろす。
心がギュッと少し苦しくなった。

「もう、さっきから蚊に刺されたとこかゆい」

つい恥ずかしくなって話題を逸らす。私は足首の刺されたところを軽く掻いた。

「花火あてたら痒いの消えるんじゃない」
「怖いこと言わないでよ」
「ろうそくで炙るとか」

私たちは軽く笑い合って、指先を絡ませた。藤くんがみんなのところに戻ろうとその絡み合った手を引く。

もう少し二人でいたいな。

つんと私も手を引き返すと藤くんが振り返る。

「なに?」と言うその顔に私はキスをした。
藤くんはただでさえきゅるっとした丸い目をさらに丸くして驚く。

「なんだよ、もー」

へなへなと力が抜けるように藤くんはしゃがみ込んだから、私も向かいにしゃがみ込んだ。
藤くんはゆっくりと顔をあげて、少し骨張った左手を私の頭上に伸ばしてきた。
そしてそっと頭を撫でて「大切にするね」と言ってくれた。

虫の声に川の音。
遠くでみんなの声がする。
ざわざわと流れ行く川だけが私たちを見ている気がした。


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