雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

27 リスター家へ

 

 レインの宣言にセオドア様とアメリア様は目を見開いた。

「でも……リスター家にいて体調は大丈夫なの?」

「うん。先日の滞在もセレンと過ごしたからか今までとは全く気持ちが違ったよ。守るべきものが出来たからかな、私も向き合わないといけないと思ったんだ」

「まあ……!愛の力というやつですね、お兄様!」

 ずっと気落ちしていたアメリア様がようやく笑顔を見せる。彼女のはしゃいだ声を否定せずに微笑むレインに、不意打ちを突かれた私の顔が赤くなる。その様子をアメリア様はニコニコと見つめた。

「とにかく……今まで各組合には入らせてもらえないことも多かった。今のセオドアは補佐官だからね。私が現地を視察して証拠を見つける。もちろん隠されていることも多いだろうけど、行動しなくてはどうにもならない」

「そうですね……レイン様が同行してくださるなら捜査も今よりずっと進むでしょう」

「それなら、私も一緒に行くわ、リスター領に」

 私が手をあげると、三人の視線が一気に集まる。


「何を言うんだ、危険だから貴女は王都にいてくれ」
「でも、私がいたから落ち着いたんでしょう?それなら私も行くわ」
「セレン……」
「お兄様、ここはセレン様に助けていただいた方がいいわよ」

 アメリア様が言うと、隣のセオドア様も頷いた。

「二週間もアナベル様と共に暮らすのですよ。もちろん護衛はつけますが、夜にまた忍び込まれる可能性だってあるんですよ。勝手に忍び込まれたら不審者扱いで対処はできますが、話の途中にまた押し倒されたらどうしますか。夜はセレン様と眠っていただいた方がいいでしょう」

 セオドアの意見にレインは途端に顔色が悪くなる。その様子を見れば私の中で「ついていかない」選択肢はなかった。レインは私を守るために打って出ることにしたのなら、私だけ王都で暮らしてはいられなかった。

「セレンに危険が及ぶかもしれない」
「まだ殺されないと思うわ。スキンシップ治療の段階を知っているのだから。きっとあの方は私のことをまじない師と思っているでしょうから」

「仕事はどうするんだ?」

「私の所長は基本的には出社されずに自身の領地で働いているわ。事情を相談すれば大丈夫よ」

「でも……」

「それに」

 私はポケットから卵を取り出して笑顔を見せた。

「私は魔法具の開発者よ、とても優秀なの。きっとお役に立てると思うわ」



 ・・

「まさかセレンも来ると言い出すなんて」

 二人との食事を終え、私たちはリスター家に戻っていた。
 カーティスがお茶を注ぎながら「もちろん私も行きますよ」と胸を張っている。

「夫婦とはそうあるべきものよ」
「セレンが危険な目に遭うのが怖いよ」
「私もレインが危険な目に遭うのは嫌なの」

「今回はセレン様の言うことの方が正しいですよ」
 カーティスがカップを私たちの前に置きながら言った。

「こちらからも護衛は連れていきますし、食事もこちらから連れて行ったものを厨房に入れます。食材も私やこちらの者が買います」
「そこまで警戒しないといけないのね」

 私は苦笑するが、レインは顔を強張らせて頷いた。

「父はアナベルに殺されたと言っただろう。セレンを「用済み」と判断したら行動も犯しかねない」
「そうね、気をつけるわ」
「こちらも難しいと思うが、父の事故についてももう一度捜査したいと思っている」
「表向きは事故でしたの?」
「うん、こちらについてはまた改めて話すよ」

 レインは疲れた顔をして言うと、カーティスの方を向いた。

「アナベルの手の者はわかったか」
「ええ、清掃担当の者が最近金回りがいいようでして。アナベル様と通じていると疑っています。証拠はありませんが、リスター領から連れてきた者でしたし一度領地に戻そうと思っています」

「わかった」

「同行する者は信頼できる数名だけ連れていきますのでご安心ください」

 カーティスが数名の名前を伝えるとレインは頷いた。リスター家を追い出された時から付いてきてくれてる信頼できる者らしい。
 私側のメイドもフォーウッド家から連れてきた者なので安全だろう。今後新しく雇いいれる者もフォーウッド家の紹介の方がいいかもしれない。

「ダンスが成功したばかりなのに次の試練ですね」
「遅かれ早かれ向き合わないといけないことだからね」

 次の決戦は二週間後。二週間の滞在の最後にはパーティーがある。
 この日はアナベル様のお誕生日会で、アメリアを嫁がせたいギリングス家の方も訪れる。
 前回は二人だけの問題だった治療だけど、難易度はぐんと上がりそうだ。


「まず二週間は仕事を終わらせないと」
「私もよ」

 レインは前々から家の事情を相談していたらしく今回は長期休暇をもらったらしい。優秀な彼が領地に戻り辞めてしまうのは魔法省にとっても痛手だろう。
 私は、日本で言うリモート勤務をお願いするつもりだ。所長は普段はそうしているし、相談すれば聞き入れてもらえそうだけど。
 メイン業務の魔力計算は他の担当者と協力が必要なことで出社しないと難しい。そちらを二週間で終わらせて、研究開発を任せてもらっている卵の開発をリスター領でする予定だ。これは主に一人で担当している仕事だからリモートでも問題ないだろう。

 しかし、敵陣にむかうのであれば便利な魔法具の試作品を作っておきたい。
 私は前世のことを思い出した。前世の夫と友人の不倫が暴けたのは、現代日本の便利アイテムがあったからだ。
 不正を暴くのに使えそうなアイテムをいくつか作れるのなら、有利にことが運びそうだ。


「迎えに行くのが遅くなりそうだから護衛に頼むことになりそうだ」
「私も毎日帰宅が遅くなるからちょうどいいかもしれないわ」
「わかった、毎日迎えに行こう」

 恋人として待ち合わせを律儀に続けてくれる愛しい人。
 アナベル様の不正を暴き、リスター領から追放できれば。彼は憂いなく朝を迎えることが出来るようになるのだろうか。

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