新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
車のドアを開けて外に出ると、寒さで一気に体の体温を奪われ、思わず背中が縮こまって両手で両腕を掴んだ。
「ほら、風邪ひくぞ! お前、コートぐらい着てから外に出ろよな」
高橋さんが、車内に置いてきてしまったコートを後ろから着せてくれた。
「すみません。 ありがとうございます」
流石に12月の夜は、冷え込んでいて寒い。
まして、少し標高の高い場所にある此処は、かなり寒く感じられた。
見上げると、ピンと張りつめた冷たさを感じる空気の中で、満天の星空が広がっている。
前回、此処に来た時は、まだ高橋さんときちんとつき合ってはいなかった。 
そんなことを思い出しただけで、つい顔がにやけてしまう。
いかに自分が今幸せなのかが、身に滲みて分かる。
すると、高橋さんの車の魔法のトランクの閉まる音がした。
魔法のトランク……。
私が勝手に命名したのだけれど、その魔法のトランクからフリースのブランケットを出してきて、私の肩に掛けてくれた。
そして無言で私の手を引くと、いつものように少し高くなった堤の上にブランケットを敷き、私をひょいっと持ち上げて座らせてくれて、高橋さんも隣に座った。
「綺麗……」
「真冬の星空は、本当に綺麗だな」
そう言いながら、堤にのせてもらった拍子に肩から少しずり落ちてしまったブランケットを掛け直してくれた。
「ありがとうございます」
この綺麗な星空に向かって、思わず右手にしていた高橋さんとお揃いの時計を夜空に翳してみた。
「何をしてるんだ?」
不思議そうに、高橋さんがこちらを見ている。
「えっ? 見せびらかしているんですぅだ! お星様に、見て! 見てって」
高橋さんは、きっとあまりにも子供っぽい私に呆れたかもしれない。
でも、何だか見せたかったんだもの……。
「フッ……馬鹿なやつ……」
そう言うと、左側にいる高橋さんが私の右肩を抱き寄せ、頭に自分の頬を寄せた。
そのままお互い暫く黙って星空を見上げていたが、その沈黙も周りの静寂も別に苦にはならず、かえって心地よく感じられる。
どのぐらい、時間が経ったのだろう。
高橋さんが、堤から飛び降りた。
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