新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
花壇のまだ花のつぼみすら付いていないツツジを意味もなく見つめた後、静かに明良さんを見上げた。
「高橋さんとミサさんは……まだ続いていたんですね」
そのまま明良さんの横を通り過ぎて、また歩き始めていた。
敢えて言葉にして発することで、見てしまった光景を現実のものとして受け容れるために。
怒りでも、憎しみでもない。
ただ……ただ、哀しかった。
高橋さんを、本当に信じていたから。 どんなことがあっても、何時も、何時でも高橋さんの言っていることを信頼して、正しいと思っていたから。
ニューヨークで向き合ってもらえた時、迷わず高橋さんに全てを委ねた。
過去は、過去として……一緒に同じ時間を刻んで行こうって。 この時計と共に、何時も一緒の時を過ごしていこうと思っていた。 その気持ちに、今も変わりはない。
何で話してくれなかったのとか、そんな野暮なことは言わないし、聞きたくない。 誰にだって、過去はあるのだから。 でも……その過去の人が、今また存在している。 まして、その人は高橋さんに何かを分かって欲しいようなことを言っていた。
もし、その何かに高橋さんが理解を示したら……その後に起きることは、私の想像の域を超えている。
その時を、その時に起こることを、自分でどう対処していいか分からない。
何も、今までと変わらないのかもしれない。 だけど、ミサさんとの過去を受け入れて、今のミサさんが分かって欲しいことを高橋さんが理解したとして、それが何か違う意味を成すものだとしたら……。
ああ……もう、よく分からない。
確か、結婚もされていて子供も居るって聞いた気がする。
その人が、何故……今、また高橋さんの前に現れたの?
明良さんも、追い掛けては来なかった。 きっと、明良さんも高橋さんとミサさんとのことを知っていたのかもしれない。 だから、追い掛けて来なかったのかな。
< 107 / 237 >

この作品をシェア

pagetop