新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
応えを聞くのが怖い。
でも、今確かめないといけないんだ。 今、確かめることが大事なのだから。
高橋さんは、きっと正直に応えてくれるはずだから。
「俺は……」
膝の上で、両手で鍵を強く握りしめた。
「フッ……」
高橋さんが目を閉じながら優しく微笑むと、目を開けてこちらを見た。
「俺は、どんな時でも、何処に居ても、何時もお前だけを見ている。 これじゃ、応えになっていないか?」
高橋さんの瞳は、一点の曇りもなくとても綺麗で澄んでいて、優しくはにかんだように微笑んだ。
ああ……何で、疑ったりしたんだろう。
ミサさんと、会っていたのは事実。 でも、その言い訳はしないって。
会っていた理由を聞いても、恐らく応えてはくれないだろう。 やましいことがないからこそ、言い訳をしないというのが高橋さんの中でのルールだから、直ぐに追い掛けて来なかった。 全てが、言い訳になってしまうから。
もう、これ以上聞かなくていいと思った。
でも……。
「高橋さんが、此処に来たのは……」
「何だ?」
言い出しにくくて躊躇っていると、高橋さんに逆に聞かれてしまった。
「明良さんに、言われたからなんじゃ……」
今、とんでもないことを口にしているような気がする。
「明良に、会ったのか?」
「えっ?」
高橋さん。
もしかして、明良さんに会っていないの?
「来るとか言ってたのに、今日は行かれなくなったとメールが来たが……」
明良さん。
どうしたんだろう?
高橋さんのマンションまで来ていたのに……何故?
何で、行かれなくなったなんて高橋さんにメールをしたんだろう?
私が、あんなことを言ったから?
「俺は、ただ……」
高橋さんの声で、我に返った。
「お前を失いたくなかったから、来ただけだ。 それ以上の理由が、何か必要か?」
高橋さん……。
思いがけない言葉に、今度は嬉しさで涙が溢れた。
「もう、泣くな」
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