新そよ風に乗って　〜慕情 vol.1〜
「フッ……。　あれは、狐と狸の化かし合いだ」
狐と狸の化かし合い？
狐が、社長？
それとも、狸？
「あの時、社長は俺に恋愛も遊びも良いが、順番を間違えるようなことはするなよ。　と、いうことを言いたかったのさ」
「順番？」
ますます、わけが分からなくなってきてしまった。
「だから……あの時、お前が妊娠しているとかいう、変な噂が流れただろ？」
あっ……。
今でも、そのことを言われると、とても苦しくなる。
「社長が、いつも恋愛を謳歌しろと社員に言っているとおり、別に社内で恋愛をしてはいけない決まりはない。　ただ、倫理的なことや物事の順序を間違えるなよと、俺に言いたかったんだと思う。　これが新入社員とかなら、そこまでいちいち口出しはしないだろうが、管理職ともなるとそれはやっぱり御法度だろ？」
この場合の倫理的なことというのは、きっと不倫のことだと思う。
そして、順序というのは妊娠のことなのかな？
「だから、俺も社長に心配を掛けるようなことは、今後もないって言ったんだ」
そうだったの？　
あの時、高橋さんが言った言葉の裏には、そんな意味が込められていたなんて……。
全然、知らなかった。
また、1人で誤解をしていた。
「じゃ、じゃあ、部内恋愛もいいんですか？」
何度でも、確認してしまう。
確かめなければ居られない自分が、そこに居る。
「だから、何処にいけないと書いてあるんだ？　社内恋愛も部内恋愛も、同じことだろ？結局は」
「は、はい」
「だからこそ……」
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