新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
まだ、何かあるの?
「ミサは、その男の子供を妊娠していたんだ」
ああ……もう……。
「もう、やめて。 高橋さん。 もういいですから、話さないで」
エッ……。
いきなり高橋さんが私を抱きしめた。
た、高橋さん。
「あまり大きな声を出すと、看護師が来るだろ」
「だって、ヒクッ……」
でも、こんな時でも高橋さんに抱きしめられると安心してしまう。
「悪かったな。 だから俺はお前の今の気持ちも、良く分かっていた。 ちゃんと説明しないで、一方的に別れを告げられた身は、どれほど辛いのかということも」
「ヒク……ヒック……ヒックッ……」
もう駄目。 止めどもなく涙が溢れてきて、どうしようもない。
「それから間もなく、ミサは別の男と結婚した」
そんな……高橋さん。
「あの時ほど、ただ好きなだけじゃ結婚できない。 男に甲斐性がないと、何も道は開けないと思ったことはなかったよ」
あっ。
『 ただ好きなだけじゃ結婚は出来ない。 』
前に、ニューヨークで高橋さんが言っていたこと。 そういうことがあったから、だから……。
だから、自分が経験したことを踏まえて言ってくれたの?
「その後の俺は、前にも話した通り。 女が信用出来なくなって、遊び狂ってた。 来るもの拒まずで、平気で他人の女にも手を出したりしてな……」
仁さんの彼女だった人とも、もしかしたらこの頃のことだったのかもしれない。
「でも、ある日。 そんな生活にも飽きて……飽きてというか、進路を決めなければならない時期でもあったから、嫌でも将来のことを考えないといけなくなって……。 結局、どんなに女と付き合ってもミサを忘れることは出来なかった。 それならば、いっそのこと、そういう甲斐性のある男になってやろうと思うようになったんだ。 それで、たまたま商学部だったし教授の推薦やいろいろ調べて会計士になろうと、大学2年の終わりに決めた。 ある意味、ミサを見返してやりたいと思った憎しみも込めた気持ちと、諦めきれない思いでな」
ああ。
もう、どうしていいか分からない。 
この気持ちをどう表現していいのか、考えが纏まらない。 こんなにもミサさんのことが好きだった高橋さんは、ミサさんのために全てを捧げたのに別れなければならなくなって……。
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