新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「どうして? 何故ですか?」
思わず、高橋さんに問い質した
「俺の知らないところで、俺の血を分けた1人の人間が存在していたんだぞ。 それを知らずに……否、知らないふりをして、のうのうと俺は生きてきた。 その間、どれだけの人を傷つけたか。 ミサもそうだが、ミサのご主人や何も知らずに産まれて来た子供。 そして……お前も」
「高橋さん。 でも、それはミサさんが選んだ道でもあるんじゃ……」
「そういう問題じゃない」
うっ。
言い切った高橋さんの瞳は眼光鋭く、全てを受け止め受け容れているといった気を出している。 真っ直ぐに逸らすこともない視線は、ジッと私を見据えていた。
きっと、私が知らないところで、もの凄い葛藤があったんだろう。
傷ついて、哀しんで……それなのに、私は……いったい高橋さんの何を見ていたんだろう。
「何故……高橋さんは、何故あの時……強引に私を抱こうとしたんですか?  それと……私も……私も、一緒にその哀しみを乗り越えてはいけないんですか?」
「男は、時として快楽を得て逃避したくなる時もある。 それに、これは俺の問題だ。 お前を巻き込むことは出来ない。 最初に、言ったはずだ。 ここまで話したんだ。 もう、分かってくれるな?」
高橋さんの言いたいことは、よく分かる。 でも、分かりたくない。 こんなのって……。 でも、高橋さんの気持ちはもう変わらない。 そう、実感した。
「高橋さん。 1つだけ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「ミサさんとのことがなかったら、私を……ずっと好きでいてくれましたか?」
自分でも、大胆なことを聞いていると思った。 でも、どうしても聞きたかった。 私がこんなにも好きになった人。 そして、これから先も多分……こんなに好きになる人は、もう出てこないと思うから。
「そんなことを聞いて、どうする?」
「それでも、教えて欲しいんです」
< 158 / 237 >

この作品をシェア

pagetop