新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
聞くのが怖かった。 でも視線を、そして心を逸らせるわけにはいかない。 逸らせてしまったら、崩れ落ちてしまいそうだったから。
暫く視線を交わしたまま沈黙が続いたが、高橋さんが口を開いた。
「お前が、思っている通りだ」
エッ……。
「分かったら、もう遅いから帰った方がいい」
そんな……高橋さん。
高橋さんがベッドから私を降ろすと、自分もベッドから降りた。
「好きなのに……どうして別れなければいけないんですか?」
高橋さんは、目を瞑った。
嫌いになったわけじゃないのに、どうしてなの?
高橋さんは目を開けると、私に優しく微笑んだ。
「これは、俺自身の問題だ。 でも今ならまだ日も浅いし、お前もやり直しが出来る。 たとえ、このままずっと一緒に居ても俺の気持ちは変わらない。 お前が、傷つくだけだ。 お前には、普通の恋愛をして欲しい」
「そんな、勝手に決めないで……でも……それでも私は……私はずっと高橋さんが好きです……好きだから」
「頼むから、分かってくれ。 俺は、もう……」
高橋さんは、そこまで言いかけて視線を逸らせた。
その表情は、とても寂しそうで辛そうだった。
「高橋さん。 私は……ずっと待っていますから」
話が平行線なことは重々承知の上でも、言わずにはいられない。 会話がと切れて部屋の中に静寂な空気が漂っていたが、苦にはならなかった。
「いつか……」
エッ……。
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