新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
ミサさんとの間には、子供が……居る。
高橋さんの心の隙間にさえ、私の入る余地などもう何処にもないんだ。
泣いているのを気づかれないように面会受付でバッチを返し、これから電車に乗ることを考えると泣いていては恥ずかしいので大きく深呼吸をして病院を出たところで、仁さんに呼び止められた。
「仁……さん」
仁さんの顔を見た途端、今まで堪えてきた感情が堰を切ったように溢れ出して、涙とともに仁さんの名前を呼んでいた。
泣いている私を仁さんは黙って助手席のドアを開けて乗せてくれた。
「家まで、送るから」
仁さんに甘えて車で送ってもらうことになったが、家までの道程、仁さんも黙ったままだった。
「ありがとうございました」
「ちょっと、待って」
マンションの前に着いてお礼を言うと、仁さんに呼び止められた。
「もう1度、始めからやり直しだね。 応援してるから」
仁さん……。
「何で仁さんは、私にそんな風におっしゃるんですか? 私に高橋さんの傍に居て欲しいって。 何故、私なんですか?」
昔から、仁さんに言われてきた言葉。 その意味が、漠然としていてよく分からなかった。  こんなことになっているのに、さっき高橋さんに会いに行く前、仁さんはまた同じことを言った。
「何で……だろうね? でも、それはきっと明良も同じように感じているはずだから」
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