新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「明良さんも……ですか?」
「貴博は、ミサさんと別れてから傍に女性が居ると笑わなくなったんだ」
エッ……。
「いつも怪訝そうな顔をして、無表情で冷たい感じのイメージしかなかった。 一応、愛想笑いはするけれど、心底笑っているところを見たことはなかったんだ。 なんかこう……目が笑っていないっていうのかな。 元々、感情をあまり表に出さない性格でもあるけれど。 でも、それが陽子ちゃんと一緒にいる時は、決まって必ずいつも笑っているんだ。 まるで陽子ちゃんを見守るように……ね。 顔は笑ってなくても、穏やかで優しい目をしている。 彼奴がそんな表情を見せるのは、陽子ちゃんだけだから。 きっと、それは明良も気づいてると思う」
「そう……なんですか?」
何だか、ピンと来ない。 高橋さんが女性と話しているところは会社でも見掛けるけど、そんな風に感じたことはなかった。 まして、愛想笑いをしているとは感じられなかった。 というか、私には分からなかったという方が正しいのかもしれない。
「貴博が心を許せるのは、陽子ちゃんだけなんだと思う。 だから、この先もいつも彼奴の傍に居て欲しい。 これは、俺からのお願いでもあるんだけどさ」
「仁さん。 私……」
「そうしないと、彼奴……また殻に閉じこもるから」
殻に閉じこもる?
高橋さん。 昔は、そうだったの? でも、もう……。
「仁さん。 私……高橋さんと別れたんです」
「でも、陽子ちゃんの中ではまだ別れてはいないんでしょう?」
仁さんの言葉に、頷いた。
「だったら、条件も条件なんだから。 毎日、顔を合わせるわけでしょ? それなら、簡単だよ」
「えっ?」
< 162 / 237 >

この作品をシェア

pagetop