新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
いつものように、高橋さんは土屋さんやその取り巻きに囲まれている。だいぶ離れた席で、同期の子とその子の担当の1つ先輩の田中主任や他、数人と飲んだり食べたりしてそれなりに盛り上がっていた。 勿論、あまり会話には加われずに聞き役だったけれど。
中原さんは、最初は高橋さんと一緒に居たが、あまりの女性陣の騒ぎぶりに疲れたらしくて、途中からこちらに一緒に参加していた。
「何か、飲む?」
「えっ? あっ、はい。 ありがとうございます」
田中さんが空になったグラスを見て、声を掛けてくれた。
「同じもので、いい?」
「すみません。 自分で行きますから、大丈夫です」
そう言って立ち上がろうとした私を田中さんは制止して、自分のも貰って来るからと取りに行ってくれた。
久しぶりに飲んだのでだいぶ酔いがまわっている気がしたが、何だか飲みたい気分だった。 飲んで、忘れられるものならば……忘れたい。 でも、忘れられない。
「矢島さん。 あまり飲み過ぎないようにね」
中原さんが、何気なく隣に来て耳打ちした。
「大丈夫ですよ。 まだ、そんなに飲んでないですから」
でも……正直、どのぐらい飲んだのかも既に分からなくなっていた。
それから3杯ぐらいおかわりしたところで、ちょうどお開きになった。
「次、何処かで飲み直す?」
エッ……。
お店を出ようとしていたところで、田中さんに声を掛けられた。
「いいんですかぁ? 行きたいです!」
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