新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「馬鹿か?」
はぁ?
何で、『 馬鹿か? 』 とか言われなきゃいけないの?
無言の抗議で、思いっきり頬を膨らませた。
「さっき俺が引き留めたその先の道を曲がって、お前は何処に行くつもりだったんだ?」
「ほぇっ? 田中さんが知っている、お洒落なお店ですよぉ」
高橋さんに、さっきも言わなかったっけ? 酔っているからって、私のことを高橋さんは馬鹿にしていない?
「あの先の道を曲がったら……その先はホテル街だ」
エッ……嘘。
「飲み屋さんなんじゃ……」
高橋さんは、黙って正面を向いた。
「田中は、そういう男で有名なんだぞ。 お前が知らないだけで……だから中原は心配して、お前が相当酔っているからと俺に言いに来た」
「そんな……」
頭がぐるぐる廻っているのが、一層酷くなってきた気がした。
だから、高橋さんも走って来てくれたの?
「月曜日にでも、中原に謝っとけよ?」
ああ。 気分が悪い。
「分かったのか?」
もう駄目。 耐えられない。
「高橋さん。 私……」
「何だ? お前。 顔色が悪いぞ。 大丈夫か?」
正面を向いていた高橋さんが、私を見るなりそう言った。
「気持ち悪い……吐きそう」
「大丈夫か? すみません。 運転手さん。 此処で」
高橋さんはタクシーの運転手さんにそう告げ、お金を払うと私の腰を抱き抱えるようにしてタクシーから降りた。
少し外の空気を吸ったら楽になるかと思ったが、気分が良くなるどころか益々酷くなってきた。
気持ち……悪い。
< 170 / 237 >

この作品をシェア

pagetop