新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「ハイブリッジと何があったのか。 話してごらん」
静かにベッドの上に私を座らせると、まゆみは私に代わってお湯を沸かして温かいコーヒーを入れてくれた。
自分でも理解出来ないまま、色々なことがあり過ぎて目まぐるしく変わっていった、ここ何週間かの間に起きた出来事を包み隠さず、まゆみに話した。
すると、まゆみは腕を組みながら暫く考えていたが、私の顔をジッと見て口を開いた。
「本心じゃないね」
「えっ?」
「ハイブリッジ。 彼奴は、絶対……まだ陽子のことが好きだよ」
「いいのよ。 まゆみ……もう」
きっと、慰めてくれているんだと思う。 慰めてくれるのは嬉しいけれど、でも今回のことはそんな容易い問題じゃない気がする。
「良くないね。 だいたい……私の経験上、男がジャケットを着たまま女を抱こうとするなんて、まずあり得ない」
「まゆみ」
いきなり、何を言い出すのかと思ったら……。
「いい? 本当に陽子のことを抱きたかったら、その前にジャケットぐらいは脱ぐはず。 それに、あの男の性格から推察すると……きっと陽子に嫌われようとして本意じゃないくせに、わざとやったんだと思う」
「そんな……」
そんなことをしてまで、高橋さんは何のために?
「ハイブリッジ自身は、陽子に快楽を求めるとか何とか言ったかもしれないけれど、それも本心じゃないね。 全ては、陽子に嫌われようとしての計算された行動。 強いては、陽子に諦めてもらいたいながらも、自分自身も戒めようとしてのことだったのかもしれない。 彼奴は、そういう男だよ。 自分の欲求だけを相手に求めて、無理強いするような男じゃない。 悪いけど、もし欲求のはけ口を見つけたければ、あのハイスペックなキャリアと容姿だもの。 幾らでも、他の女に声を掛ければ直ぐに寄ってくる。 そうでもなきゃ、たかが上司だっていうだけで陽子を家まで送って来やしないし、まして吐かせるなんてこと……親でも出来ないでしょ? 好きでなければ、酔っぱらいの介抱なんてしないよ。 面倒臭いもん」
「まゆみ……」
「だいたいさぁ。 陽子を前にして言うのも何だけど、彼奴……女には不自由しないはず。 だから、敢えてその捌け口を陽子に向けるとは考えにくい。 まして、今の彼奴の立場からいって、そんな軽率な行動に出るとも思えない。 下手をすれば、ハニートラップに引っ掛かって今の地位が危うくなるような橋は渡らない」
まゆみの言っていることが、真実だと思いたい。
でも……。
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