新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「まゆみったら……もう」
まゆみは冗談を言って、私を元気づけようとしてくれている。 それが痛いほど分かるから、返って苦しくなって涙が出てきて仕方がなかった。
まゆみの言う通り、確かに時計をしていなかったのは、偶々だったのかもしれない。 けれど、高橋さんの本心は未だに分からないまま。
まゆみとお茶を飲みながら話しているうちにやっとお腹が空いてきたので、冷蔵庫の中にあるもので昼食を一緒に作って、久しぶりに笑ったりしながらまゆみとのひとときを過ごした。
「また、会社の帰りにお茶しよう」
「うん。 ありがとう」
「それじゃあ、元気出しなさいよ。 諦めたら、駄目。 負けだからね。 絶対、ハイブリッジは陽子のことが好きだから。 でも、今はそれを口に出せないだけ。 子供の具合のこととかもあるからだと思う。 これで子供の体調が落ち着いてくれば、また変わって来るんじゃない? 真面目な彼奴のことだから、きっと子供の具合が悪いのは自分にも責任があるとか思っているかもしれないし。 それに……」
まゆみが真剣な表情をして、玄関先で靴を履きながらこちらを振り返った。
「本当は、今日私が此処に来たのは……高橋さんから連絡があったからなんだよ」
「嘘……」
帰り際、まゆみが思いも寄らないことを言った。
「嘘でしょう? ま、まゆみったら、また私を喜ばそうとして……」
「こんなこと、 嘘ついても仕方がないジャン。 彼奴は言うなって言っていたけど、女の友情の方が男との約束ごとなんかより遙かに深いってことが、まだまだ分かってないんだよなぁ。 心配だから、見に行って欲しいって。 あんたが、昨日貧血起こして倒れたからってさ」
「本当に?」
まゆみの言っていることが、信じられなかった。
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