新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
体が熱いのとトイレに行きたくなって目が覚めて、 重たい体を起こそうとした時、 体の異変に気づいた。
エッ……。
起きられない。
必死に力を振り絞ってやっとの思いで起きあがってトイレに向かおうとしたが、 目眩がして立っていられない。
何? この目眩。
仕方なく、 這うようにしてトイレに向かった。
どうしたんだろう?
何だか呼吸も苦しい感じがする。
風邪?
熱を計りたかったが、 体温計のある場所まで行く気力がない。
結局、 冷蔵庫にあったスポーツドリンクを飲んだだけで、 土曜日も日曜日も同じような感じのままずっと寝ていたが、 一向に良くならずに月曜日を迎えてしまった。
決算で忙しい、 最後の週。
休むわけにはいかない。
何とか起き上がってはみたものの、 部屋の景色が廻っていて気持ち悪さと呼吸の苦しさから、 また直ぐベッドに横になってしまった。
仕方なく申し訳なかったが休む事にして会社に電話をすると、 中原さんが電話に出た。
「大丈夫なの? お大事に」
「申し訳ありません。 よろしくお願いします。 ゴホッゴホゴホッ……」
昨日の夜から咳も出るようになり、 出始めるとなかなか止まらない。
はあ……苦しい。
喋ったからかな?
体中の節々が痛い。 典型的な風邪かもしれない。
そっと体を横に向けて息苦しい呼吸を整えながら、 半分眠っているような? 眠っていないような? そんな1日を過ごしていた。
ベッドに横になっていても、 ふわふわと宙に浮いているような体。 
こんな時でも目を瞑って思い浮かべるのは、 高橋さんのあの悪戯っぽく笑った笑顔だった。
会いたいな。 高橋さんに……。
金曜日はそうは思えなかったけれど、 今は会いたいと思う。
不安定な気持ちなのは、 具合が悪かったからかな?
何か食べなきゃ。 でも、 何も食べたくない。
ピンポーン。
エッ……誰?
今、 何時なんだろう?
ずっとカーテンを閉めたままだったが、 外は暗い感じだった。
慌てて体を起こそうとするが、 なかなか起き上がれない。
ごめんなさい。 どなたか分からないけど、 出られません。
そのまま静かにまたベッドに横になっていると、 頭の上の方で今度はスマホのバイブが振動し始めた。
やっとの思いで手を伸ばして、 スマホを取って画面の表示を見ると、 そこには……。
―高橋 貴博―
エッ……。
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