新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「さて! 陽子ちゃぁん。 あれこれ栄養注入するからねぇ。 ちょっと痛いけど、 ごめんね」
そう言うと、 腕を捲って明良さんが点滴の針を刺した。 点滴の薬が2袋。
「はい。 おしまい。 次に、 早く元気になるための注射をするよ」
ま、 まだあるの?
そう言いたかったが、 それもこれも全て私のために明良さんが治療してくれていると思ったら、 何も言えなかった。 というよりも、 明良さんなので安心して任せられるという方が、 正しいのかも知れない。
「大丈夫。 点滴の中に一緒に入れちゃうから」
そう言って、 明良さんは点滴のルートキャップを外して、 注射針を差し込んで液体を入れた。
ひと通りの作業を終えたところで、 明良さんのスマホが鳴った。
「はい。 武田です。 出た? 直ぐ行きます」
電話を終えると、 明良さんが 『 検査結果出たみたいだから、 少し待ってて 』 と言いながら病室を出て行った。
そして、 出た結果が肺炎。 しかもだいぶ重いとのことで、 暫く入院することになってしまった。
「早く我慢しないで、 病院に来ないと。 そのために俺たちがいるんだよ? 患者さんがみんな我慢しちゃったら、 重症になってあっという間に病室も埋まっちゃう。 それはそれで、 また困るでしょ? だから、 少しでも具合が悪いと感じたら、 なるべく早めに病院に来て。 そこから先は、 俺たちの仕事だから。 何も、 とって食おうなんて思って無いから。 安心して来て。 ね! 陽子ちゃん」
「はい。 ごめんなさい」
「謝るなら、 貴博に感謝でしょ。 貴博が陽子ちゃんの家に行かなかったら、 もっと大変なことになっていたかもしれないんだから。 そうしたら、 呼吸器科のドクターにお願いしないと無理だった。 専門的なことは、 やっぱり専門の科に任せないといけないから。 そうなると、 いくらゴッドハンド明良様でも、 専門は外科だからお手上げよ。 あっ。 この酸素の量も、 当直の呼吸器のドクターに確認してあるから安心してね」
そう言って、 明良さんは酸素の量を確認していた。
「明良さん……」
明良さんも、 高橋さんと同じようなことを言っている。 本当に2人の仲の良さというか、 絆というか。 目に見えない固い結びつきを感じる。 勿論、 仁さんも同じ。
「今、 酸素2だけど、 良くなってくれば下げられるから。 まずは、 体力つけて肺を綺麗にしよう」
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