新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「明良さんと仁さんに、その……私と付き合っているってことは……あの、もう言ったんですか?」
あまりにも唐突だったかもしれないが、それでも構わなかった。
やはり、何というかある程度、心の準備は必要だから……。
「ん? 言ってないが……」
「そうなんですか」
じゃあ、まだこれからってこと?
「言うつもりもない」
エッ……。
高橋さんは、普通にビールを飲みながらそう言った。
どうして?
どうして、言うつもりもないの?
別に言って欲しいとか、そんな大それたことではないけれど、何で仲の良い2人に高橋さんは言わないのだろう?
「何か、不満?」
「い、いえ、そんなことないです」
急に聞き返されても、何と言ったらいいのか困ってしまう。
「だいたい、言う必要もないだろ?」
言う必要もないって、そんな……。
胸に、とても太い大きな棘が刺さったような痛く苦しい気分だった。
高橋さんは、親友にも私と付き合っているってことは、言うつもりはないんだ。
言いたくないってこと?
それとも、隠しておきたいということなの?
もし、そうだとしたら、私自身の身の振り方だって変わってくる。 
それどころか、果たして明良さんと仁さんに隠し通すことが出来るだろうか?
やはり高橋さんは謎の多い人だけれど、親友にも秘密主義なのかな?
でも、それが私にはとても虚しく感じられた。
あんなにいつも心配してくれていた明良さんと仁さんに、やっと高橋さんと付き合えるようになったと報告出来たら、きっと喜んでくれると思うのに……。
それが出来ないなんて、言えないなんて、言う必要もないなんて。
まゆみには、私は真っ先に報告した。 でも、男と女では捉え方がやはり違うのかな。
でも……。
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