新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
高橋さんは、右手で私の左手首を持ったまま左手で飲みかけのビールを一気に飲み干すと、空いた缶をテーブルの上に置いてリビングの電気を消して、そのまま寝室へと私を連れて行った。
ベッドの縁に両肩を押されて腰掛けさせると、高橋さんはポケットから携帯電話を充電器にのせた。
そして、布団を捲ってそっと私の肩を押してベッドに寝かせて両足を持ち上げてマットの上に乗せてくれると、そのまま高橋さんも一緒にベッドに入った。
「眠かったら、寝ちゃって構わない」
高橋さんは自分で肘枕をして、私の方を向きながらそう言った。
そんな高橋さんの言葉を拒むわけにもいかず、黙って従うしかなかった。
でも、本当は別に疲れているわけでもないし、眠くなんてない。 そんな私を知ってか知らずか、高橋さんは抱きしめるわけでもなく、体を密着させてくるわけでもない。
寧ろ、添い寝をしてくれている感じだった。
「実は、俺……」
高橋さんが、静かに話し始めた。
「昔、仁とは凄く仲が悪かったんだよ」
「えっ?」
高橋さんと仁さんが、仲が悪かったなんて……。 今からは、とても想像が出来ない。
「相づちは、打たなくていいから」
「痛……」
高橋さんが、軽く私のおでこにげんこつを当てた。
「高校のバスケット部で、仁と俺は同じポジションのレギュラーを争っていたんだ」
仁さんと? 
そうだったんだ。
「当時は、まだ高校1年のガキだったから、お互いもの凄いライバル心を燃やして、殆ど口も聞かなかったんだが……。 ある日、俺が3年の引退試合の練習の紅白戦に出た時、仁とぶつかって捻挫して……」
嘘!
高橋さんが怪我をするなんて、今想像しただけでも胸がドキドキして心臓によくない。
「まあ、大したことかったんだが、その後3年が秋に引退してから新レギュラーメンバーを決めるまでの間に、何回かあった練習試合には殆ど出られなかった。
その後、新レギュラーを決めることになった際、その当時の2年は何故か身長の低い先輩が多くて、俺達1年の方が身長も高かった、よく試合にも途中交代とかで出して貰えてたんだよ。 そんなこともあって、仁が俺と争っていたポジションのレギュラーに選ばれた。 フッ……」
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