新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「ハイブリッジに、直接聞いてみなよ」
「ゲホッ、ゲホッ……」
あまりに唐突なまゆみの言葉に、コーヒーを吹き出しそうになって咽せてしまった。
「大丈夫?」
「う、うん。 まゆみが、いきなり変なことを言うからよ」
「何が、変なことよ。 陽子の彼氏である前に、ハイブリッジは上司でもあるわけでしょ? だったら1番手っ取り早い方法として、直接聞くのが1番確実じゃない。 悶々と悩んでないで、そうしなさいよ」
「ええーっ!」
そんなこと、聞けない。 直接だなんて。
「でも、これって重要なことだよ。 陽子だってそうだけど、場合によってはハイブリッジにだって降りかかって来ることなんだからね? 例えば、出世に響くとか」
エッ……。
そんなことは、絶対に嫌!
私のせいで、高橋さんの将来に支障を来すのだけは避けたい。
「明日にでも、聞いてみなさいよ。 金曜日だし今年のクリスマスは平日だから、今週末か、23日しかクリスマスイベントとしては会えないでしょ?」
「えっ?」
「何? まだ約束してないの? クリスマスは、もう来週だよ? 出張から帰ってきて初めての週末だし、クリスマスも近いし、もう会わない手はないでしょう?」
「そ、そうかな」
「そうなの!」
去年のクリスマス……。
高橋さんに連れていってもらった湖で見た、綺麗なクリスマスイルミネーションの下、出張のお土産で高橋さんの香りを貰ったんだった。
『俺が取り戻したい人生の忘れ物。それは、忘れてしまった恋愛』 そう高橋さんは、言っていた。
あの頃から高橋さんとの関係は、少し進歩した。
でも、私自身はまだまだ大人に成りきれていない、もどかしさ。
「クリスマスまでに会いたいってちゃんと言って、約束取り付けなさいよ?」
「分かった……」
そうは言ったけれど、自分から誘うなんてまだまだとても出来そうにない。
高橋さんは、クリスマスはどうするのかな? 
明良さん達と、約束しているのかな?
出張から帰ってきてからまだ1週間も経っていないのに会いたくて、会社以外でも……。そんな欲が出て来てしまっている。
昨日、まゆみにあんなことを言われたものだから、朝からそわそわしてしまっていた。
事務所に着くと、相変わらず今朝も 【高橋、此処に居ます】 オーラが全開で出まくっている。
はぁ……。
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