新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
ちょうどお昼時と重なって、何処も混んでいて並んでいる。 
なかなか空いているお店が見つからず、人混みが苦手なこともあってしばしば高橋さんから遅れがちになってしまう。
そうかといって、混んでいる中で手を繋いで歩けるほど通路も広くなく、かえって歩きづらい。
やっと少し広い所に出た途端、高橋さんが私の手を握った。
あっ……。
まだ慣れないせいか、手を握られると緊張してしまう。 しかし、それは逆に安心出来る矛盾さも相備えている。 少しメインストリートから外れているところで、比較的空いているお店を見つけて、オーダーを済ませると高橋さんがトイレに立った。
窓際の席だったので、お店の前を行き交う人々をぼんやりから眺めていると、隣の席から声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ。 あの子が、あの男の彼女? 何だか、不釣り合いよね」
「女の趣味、悪くない? もっと大人っぽい、年相応な綺麗な人が似合うのに。 例えば、私とか? アッハッハ……」
「あんた、相変わらず自信過剰だわ」
「あら? 本当のことを言って、何が悪いのよ」
さっきと同じようなことを、また言われてしまった。
端から見たら、やはりそんな風に見えるのかな。
そう言えば、高橋さんときちんと付き合うようになってから、こうやって街中でデートをするのは日本では初めてかもしれない。
仕事が終わってから食事には行ったことはあったけれど、休日の日中、デートらしいデートというか、手を繋いで歩くのも初めてかもしれない。
ニューヨークでは何も言われなかったし、視線も感じなかった。
向こうの人は、どんな服装だろうが他人が何をしていようが、人それぞれだからということで何も言わないし、干渉もしない。 
個人の自由。
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