新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
少し前を歩いていた高橋さんが振り返って、立ち止まった私に気づいて戻ってきた。
「どうした? 疲れたのか?」
どう表現していいのは分からず、黙って首を横に振る。
「ん? 人混みに酔った?」
高橋さんが、私の顔を覗き込んだ。
「言わなきゃ、分からないだろ?」
そんな高橋さんの行動や、その優しい声に対する他人の目が今は怖くて辛かった。
「高橋さん。 ごめんなさい。 少し、離れて歩いてもいいですか?」
その言葉に、高橋さんがじっと私の顔を見るなり手を握った。
「此処だと、ちょっと邪魔になるから……こっち」
「えっ? あ、あの高橋さん」
人通りの激しい所だったので、空いているスペースがあるショップのショーウィンドウの端まで場所を移動した。
「どうした?」
「いえ、何でもないです。 ちょっと、人混みが苦手なので……だから……」
「お前、頼むから此処で泣くなよ?」
肩に力が入って呼吸をしているからか、なかなか気持ちを落ち着けられない。 その高橋さんの言葉に上手く作れない引きつった笑顔を見せて目を瞑った途端、涙がこぼれ落ちてしまった。
こんな場所で……泣いたら駄目。
高橋さんに、迷惑が掛かっちゃう。
必死に高橋さんの顔を見るふりをしながら、上を向いて涙を堪えた。
そんな私を見て、高橋さんもそれ以上は聞かずに黙っていてくれている。
気持ちを落ち着けなきゃ。 
早く冷静になって、気持ちの整理をして……。
「嫌だ、あの子。 もしかして、男にふられたんじゃないの?」
「そうかもね。 でも、当然でしょ。 身の程知らず、身分不相応ってやつよ」
「言えてる。 1回、真剣に鏡で自分を見た方がいいよね」
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